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「温故知新」-I LOVE JAPAN,I LOVE KYOTO.-

 京都にはもう何回行っただろうか?平成5年からここ10年以上、立命館大学やWセミナー京都校での講義やゼミ、京都大学での特別講演会などで毎年最低10回は行っているので最低100回以上、ひょっとして200回近くになっているかもしれない。それでも、ずっと京都に住んでいる人にはかなわないが、かえって私のように月1回程度京都に行く人のほうが、新鮮な目で京都を見ることができるのかもしれない。とはいえ私は仕事(講義・ゼミ・講演会)で行くのであって、観光が目的ではない。そこで私が紹介できるのは、原則として駅やホテルから往復3時間程度で行けるような場所が中心となる。
東寺(教王護国寺)−その1− (07/06/14)

 一番お薦めなのは東寺(教王護国寺)である。映画やTVドラマでその舞台が京都であることを象徴的に示す代表例が東寺の五重塔である。私が最初に東寺に来た(ここは「行った」というより「来た」という表現が当てはまる)のは平成5〜6年ぐらいで、小学生の頃から京都に来ている私にとってはそう古いことではない。しかし、「ここから平安京が始まったのだ…」と何となく感じたのは、随分昔だったような気もする。

 そもそも東寺は、真言宗の開祖である空海が、平安京に遷都した桓武天皇の息子である嵯峨天皇から賜った。私は毎年1〜2度だが東寺を訪れるたびに、空海と嵯峨天皇の二人が平安京、ひいては日本文化や日本社会の基礎を形成したのではないかと考えるようになった。今では空海が日本人の精神面、嵯峨天皇は空海の影響を受けつつ世俗的な統治者の心構え・態度を示したのだと私は思っている。後で知ったことだが、やはり、日本で最初のノーベル賞受賞者である湯川英樹博士や哲学者の梅原猛氏も空海を単なる真言宗の開祖としてだけでなく、日本の歴史上最強の天才として最大限に積極的に評価しているし、天皇陛下は天皇の理想像を嵯峨天皇に求めているのである。

 平安京の面影は今なお東寺に残っている。西寺は廃れて、今では公園になってしまった。しかし、東寺は平安京にあったそのままの場所に厳然と今も残っている。太平洋戦争中も東寺を含む京都はアメリカ軍の空爆を免れた。その理由は諸説あるが、空海と東寺を中心とする京都の神社・仏閣(諸神・諸仏)のパワーがアメリカ軍の空爆を免れさせたのだと私は思う。象徴的なのは1945年8月15日敗戦の日、東寺は固く門を閉ざし、五重塔も熊笹に覆われていたのだが、不思議にも滅多に花を開かない熊笹が一斉にその日に花を開いたという。

 また東寺には世界の文明・文化が詰まっている。インドの神々もギリシャや中国の影響を受けつつ諸仏・諸菩薩・諸明王・諸天に姿を変えて、この日本の東寺講堂に鎮座している。西から東へ伝わった文明・文化の終着点が日本であることが、特に東寺の講堂において直感できるのだ。

 さらに日本の歴史が詰まっている。空海が自ら刻んだといわれる不動明王像のように平安時代からそのまま残っている仏像もあるが、仏像や建物の多くは戦火等で失われた。しかし修復・復興のたびにその時代の権力者が再建に力を貸し、一流の仏師の手が加わっている。源頼朝が再建に力を貸した鎌倉時代だけでなく、足利尊氏を通じて室町時代、豊臣秀頼や北の政所を通じて安土・桃山時代、徳川家光を通じて江戸時代の足跡も残されている。食堂(じきどう)の四天王は激動の昭和初期を象徴するように1930年の失火で焼かれたままであるが、今も叫び声をあげて平成の修復を待っているようにも思える。宝物館にはたくさんの国宝・重要文化財がある。ここで平安京の玄関である羅城門にあった毘沙門天や後に修復された千手観音、西寺の地蔵菩薩にも会える。

 東寺は京都駅から歩いても行けるが、近鉄で一駅の距離である。本数も比較的多い。時間のない方や体力に自信のない方は電車がよいであろう。

 私は当初から何となく「東寺の講堂を京都巡りの出発点をすべきだ」と思っていた。これも後で知ったことだが、作家の井上靖氏も京都に知人を案内するときには東寺の講堂を出発点としていたとのことである。これに対して、同じく作家の司馬遼太郎氏は東寺の御影堂(みえどう。運慶の四男康勝が刻んだ空海像がある)を出発点としていたようである。いずれでもかまわない。最初は何も感じないかもしれないが、東寺の存在意義とその偉大さは次第にわかってくるのものだと思う。

 それと同時に2007年の6月15日(空海は真言七祖の一人である不空が死亡した774年6月15日に誕生したという)を迎え、天皇陛下が尊敬する嵯峨天皇の精神的支柱であった空海を、私達も再評価すべき時が来たのではないかと思う。



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