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受験に役立つ書籍・ビデオ
映画『化粧師 -kewaishi-』
 第14回東京国際映画祭 コンペティション公式参加作品(脚本賞受賞)
 2002年2月〜3月全国東映系ロードショー
 原作/石ノ森章太郎 監督/田中光敏
 出演/椎名桔平・いしだあゆみ・田中邦衛・菅野美穂・池脇千鶴・佐野史郎ほか
 公式サイト/http://www.kewaishi.com/

 原作は石ノ森章太郎の同名漫画。現在石森プロの代表を務める夫人によれば、「故人が自ら描きたくて描いた萬画。生前中、映像化も望んでいたくらい熱い思いの作品」とのこと。

 「化粧師(けわいし)」とは、現代風にいえばメイキャップ・アーティストということになるのだろうか。つまり化粧の専門家である。主人公、小三馬は東京の下町を舞台に活躍する化粧師で、「小三馬に化粧をしてもらうと不思議にいいことがある」というもっぱらの評判。芸妓や商家のおかみなどに贔屓にされ、自身で薬草から化粧を作り出すほどの化粧の専門家である。しかし一方で、金持ち相手にしか商売をしない金の亡者で、客の足下を見て高値をふっかける男だという悪評もある。

 物語は、小三馬に化粧をしてもらうことによって人生の転機を迎える様々な女性たちを描いて進んでいく。無愛想で無口な小三馬は多くを語らない。しかし、折に触れて発せられる短い言葉には重みがあり、化粧によって気付く「何か」もまたそれぞれである。重要なのは、小三馬はただプロとして適切な化粧をするだけだということである。小三馬は背中を一押しするだけ、その先は一人一人の人生なのだから。

 映画初監督という田中光敏は、映画祭での上映終了後に行われたティーチ・インにおいて、「映画の中に出てくる平塚雷鳥の『女は太陽である』という言葉が全てです」と語り、主演の椎名桔平は「この映画は人の『こころ』を描いた作品だと思います」と語っている。たしかに、女性が真に「美しい」とはどういうことなのか、また、心を尽くすことが結局は他人の心を動かすことになるのだということが、よく描かれている。

 原作の舞台は江戸時代だが、これを大正時代に置き換え、その美しい日本情緒を見事に再現した美術は素晴らしい出来に仕上がっている。特に光線の使い方は見事で、物語のキーポイントで効果的に挿入される明るく開放的な草原のシーンと、日本家屋が持つ適度な暗さとの調和が極めて美しい。

 また、本作の製作には、天然素材による商品開発が理念というイオン化粧品が加わっているが、作品序盤において小三馬が語る、不純物(ここでは亜鉛を取り上げている)の入った化粧品の恐ろしさについては、後に重要なポイントであることが判明する。他人に化粧をするのは初めてなので研究を重ねたという椎名の演技とともに、周辺のリサーチも充分に行われている様子が垣間見える部分である。

 物語としてはある程度の予定調和の中に収められ、ややエピソードを詰め込みすぎの感はあるものの、人間の「こころ」の有り様について素直に感動させてくれる佳作である。是非その美しい雰囲気と、徐々に重ねられていく心に染みるエピソードに浸って欲しい。受験生のみなさんも、勉強の合間に、しばし時間を忘れて『化粧師』の世界に浸ってみてはいかがだろうか。

(02/03/08 粟村哲志)
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