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今年狙われる重要判例
民法1 (4/2)
(最大判平11.11.24=平11重判・民法5=判例六法・民法369条6番・423条6/26番)

 抵当権者が目的不動産の不法占有者に対して明渡し請求できるか、が争われた。

【論点】
1.抵当権者は、所有者の不法占有者に対する妨害排除請求権を代位行使(423条)することができるか(肯定)
2.抵当権に基づく妨害排除請求として、抵当権者が優先弁済請求権の行使が困難となるような状態の排除を求めることが許されるか(傍論だが肯定)。
3.抵当権者が不法占有者に対し、直接、(所有者ではなく)抵当権者に不動産を明け渡すよう求めることができるか(当該事例につき肯定)

【判旨】*筆者による補足説明を加筆
「抵当権は、競売手続において実現される抵当不動産の交換価値から他の債権者に優先して被担保債権の弁済を受けることを内容とする物権であり、不動産の占有を抵当権者に移すことなく設定され、抵当権者は、原則として、抵当不動産の所有者が行う抵当不動産の使用又は収益について干渉することはできない。
←抵当権は「非・占有担保」である
 しかしながら、第三者が抵当不動産を不法占有することにより、競売手続の進行が害され適正な価額よりも売却価額が下落するおそれがあるなど、抵当不動産の交換価値の実現が妨げられ抵当権者の優先弁済請求権の行使が困難となるような状態があるときは、これを抵当権に対する侵害と評価することを妨げるものではない。
←パンチヘッドのお兄さんの占有により事実上「損害」が生じることを認めた
 そして、抵当不動産の所有者は、抵当権に対する侵害が生じないよう抵当不動産を適切に維持管理することが予定されているものということができる。
 したがって、右状態があるときは、抵当権の効力として、抵当権者は、抵当不動産の所有者に対し、その有する権利を適切に行使するなどして右状態を是正し抵当不動産を適切に維持又は保存するよう求める請求権
(←これが債権者代位での被保全債権)を有するというべきである。
 そうすると、抵当権者は、右請求権を保全する必要があるときは、民法四二三条の法意に従い、所有者の不法占有者に対する妨害排除請求権を代位行使することができる
(←めでたく判例変更!)と解するのが相当である。

 なお
(←ここからは「傍論」なので厳密には「判例」ではない)、第三者が抵当不動産を不法占有することにより抵当不動産の交換価値の実現が妨げられ抵当権者の優先弁済請求権の行使が困難となるような状態があるときは、抵当権に基づく妨害排除請求として、抵当権者が右状態の排除を求めることも許されるものというべきである。←事実上の判例変更といえる

 最高裁平成元年(オ)第一二〇九号同三年三月二二日第二小法廷判決・民集四五巻三号二六八頁は、以上と抵触する限度において、これを変更すべきである。

 …右事実関係の下においては、被上告人(抵当権者)は、所有者である吉田に対して本件不動産の交換価値の実現を妨げ被上告人の優先弁済請求権の行使を困難とさせている状態を是正するよう求める請求権を有するから、右請求権を保全するため、吉田の上告人らに対する妨害排除請求権を代位行使し、吉田のために本件建物を管理することを目的として、上告人
(目的物を占有している怪しいお兄さん)らに対し、直接被上告人(抵当権者)に本件建物を明け渡すよう求めることができるものというべきである。」←本来は所有者(=抵当権設定者=債務者)に明渡すのがスジだが、所有者と占有屋はグルなので、抵当権者が自ら管理する必要性がある

【判例のポイント】
1.(判例変更)抵当権者は、民法423条の法意に従い、所有者の不法占有者に対する妨害排除請求権を代位行使することができる。
2.(傍論だが事実上判例変更)抵当権に基づく妨害排除請求として、抵当権者が優先弁済請求権の行使が困難となるような状態の排除を求めることも許される。
3.当該事例につき、抵当権者が不法占有者に対し、(所有者ではなく)直接抵当権者に不動産を明け渡すよう求めることができる、とした。

【ワンポイントレッスン】
1.背景
 抵当不動産に不法占有者がいても、抵当権実行後、買受人が所有権に基づく妨害排除請求をして追い出せば済むようにも思える。
 しかし、パンチヘッドのお兄さんがうろうろしている物件を高い金払って買おうという人がいるはずもなく、事実上、抵当権実行による債権回収は極めて困難になる。
 そこで、本判決は、ついに抵当権者による明渡し請求を認めるに至った。
2.THE 傍論
 英米法において、裁判が先例として拘束力を有するのは、その裁判の結論の基礎となった部分だけであり、この部分を「ratio decidendi」(判決理由)という。
 これに対して、単なる付随的な意見を「obiter dictum」(傍論)と呼ぶ。
 日本の法制では裁判にこうした厳格な区別はないが、実質的にはほぼこれに当たる区別を認めるべきで、先例として拘束力をもつのは、「ratio decidendi」(判決理由)の部分である、と一般に解されている(佐藤・憲法P27以下を参照)。
 本判決後半の、抵当権に基づく妨害排除請求に関する部分は「傍論」であるが、試験対策としては「判例」として覚えておけばいい。
 生存権(憲法25条)の具体的権利性を否定した最大判昭42.5.24(朝日訴訟)の判旨は明らかに「傍論」であるが(判例六法では一回り小さい文字で載っている)、公務員試験では「判例」として頻繁に出題されている。

【試験対策上の注意点】
1.本年度の試験より、判例変更を意識した問題が出題されることが予想される。択一・論文を通じて重要な判例である。
2.論文では、理論的には抵当権は「非・占有担保」であるから明渡し請求は否定されるように思えるが(形式面)、占有屋の存在により事実上損害が生じることから明渡し請求を認める必要性がある(実質面)、という流れで書くとよい。

(沖田)

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