| 最新判例番外編 都庁・特別区「法律事情」特集 | 
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                        | IV.戦没者遺族会への補助金支出と政教分離(最判平11.10.21) | 
                       
                    
                   
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                  【判例のポイント】 
                  1.憲法20条1項後段にいう「宗教団体」、同89条にいう「宗教上の組織若しくは団体」とは、特定の宗教の信仰・礼拝・普及等の宗教的活動を行うことを本来の目的とする組織・団体を指す。 
                  2.日本遺族会・箕面市遺族会は、いずれも、特定の宗教の信仰・礼拝・普及等の宗教的活動を行うことを本来の目的とする組織・団体には該当せず、前記「宗教団体」又は「宗教上の組織若しくは団体」に該当しない。 
                  3.箕面市から、市社会福祉協議会を経て、市遺族会に配分された本件補助金の支出・同市職員による本件書記事務への従事は、憲法20条1項後段・89条に違反するものではない。 
                  4.遺族の福祉増進面での金銭的・事務補助による援助が、結果として市遺族会の宗教性を帯びた活動に対する間接的援助となる面があるとしても、その効果は、間接的、付随的なものにとどまり、特定の宗教を援助・助長・促進し、又は他の宗教に圧迫・干渉を加えるようなものではない。 
                  5.本件補助金支出・本件書記事務への従事は、宗教とのかかわり合いの程度が、我が国の社会的・文化的諸条件に照らし、信教の自由の保障の確保という制度の根本目的との関係で相当とされる限度を超えるものとは認められず、憲法20条3項により禁止される宗教的活動に当たらない。 
                  【判旨】 
                  「憲法の政教分離原則の趣旨からすれば、憲法二〇条一項後段にいう「宗教団体」、憲法八九条にいう「宗教上の組織若しくは団体」とは、特定の宗教の信仰、礼拝、普及等の宗教的活動を行うことを本来の目的とする組織ないし団体を指すものと解すべきである。 
                   所論の点に関する原審の事実認定は、原判決挙示の証拠関係に照らして首肯するに足り、右事実及び原審が適法に確定したその余の事実関係の下では、財団法人日本遺族会(以下「日本遺族会」という。)及びその支部である箕面市戦没者遺族会(以下「市遺族会」という。)が行う英霊顕彰事業には靖国神社の参拝の実施等の宗教的色彩を帯びた活動も含まれているが、これらの活動を含む右事業は、会の本来の目的として、特定の宗教の信仰、礼拝、普及等の宗教的活動を行おうとするものではなく、その会員が戦没者の遺族であることにかんがみ、戦没者の慰霊、追悼、顕彰のための右行事等を行うことが、会員の要望に沿うものであるとして行われていることが明らかであり、これらの点を考慮すれば、日本遺族会及び市遺族会は、いずれも、特定の宗教の信仰、礼拝、普及等の宗教的活動を行うことを本来の目的とする組織ないし団体には該当しないものというべきであって、前記「宗教団体」又は「宗教上の組織若しくは団体」に該当しないと解するのが相当である。 
                   以上のことは、最高裁昭和四六年(行ツ)第六九号同五二年七月一三日大法廷判決・民集三一巻四号五三三頁、最高裁昭和五七年(オ)第九〇二号同六三年六月一日大法廷判決・民集四二巻五号二七七頁、最高裁平成四年(行ツ)第一五六号同九年四月二日大法廷判決・民集五一巻四号一六七三頁の趣旨に徴して明らかというべきである(最高裁昭和六二年(行ツ)第一四八号平成五年二月一六日第三小法廷判決・民集四七巻三号一六八七頁参照)。 
                   したがって、箕面市から、社会福祉法人箕面市社会福祉協議会(以下「市社会福祉協議会」という。)を経て、市遺族会に配分された本件補助金の支出及び同市の職員による本件書記事務への従事は、憲法二〇条一項後段、八九条に違反するものではない。 
                   これと同旨の原審の判断は、正当として是認することができる。 
                   また、右のとおり、市遺族会が特定の宗教の信仰、礼拝、普及等の宗教的活動を本来の目的とする団体に当たるとはいえないところ、原審の適法に確定した事実関係の下においては、本件補助金の支出及び本件書記事務への従事の目的は、遺族の福祉増進にあることが明らかであり、遺族の福祉増進の面での金銭的ないし事務補助による援助が結果として市遺族会の宗教性を帯びた活動に対する間接的な援助となる面があるとしても、その効果は、間接的、付随的なものにとどまっており、特定の宗教を援助、助長、促進し、又は他の宗教に圧迫、干渉を加えるようなものとは認められない。 
                   したがって、本件補助金の支出及び本件書記事務への従事は、宗教とのかかわり合いの程度が、我が国の社会的、文化的諸条件に照らし、信教の自由の保障の確保という制度の根本目的との関係で相当とされる限度を超えるものとは認められず、憲法二〇条三項により禁止される宗教的活動に当たらないと解するのが相当である。 
                   このことは、前掲各大法廷判決の趣旨に徴して明らかである。これと同旨の原審の判断は、正当として是認することができる。」 
                  (沖田) 
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